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Ⅺ リフレインは叫んでいる 2008

「♪不思議な不思議な池袋。東が西武で、西、東武、高くそびえるサンシャイン」

 池袋をあまり知らない人が池袋で待ち合わせをすると、駅に着くとこの歌を歌い西口と東口を確認する。

 西口と東口をつなぐ一番の近道は、駅構内を除けば、JRの線路下の狭いトンネル・WEロードだ。人と自転車のための通路で、車は通れない。

 車で東から西へ、もしくは西から東へ移動するなら、南口のびっくりガードか、北口の池袋大橋へ迂回しなければならない。

 WEロードの意味は、「私たち」ではなく、西(WEST)と東(EAST)の頭文字を取ったものである。

 トンネルのなかは照明こそ明るいものの、子供が楽しめる動物の絵が書いてあるわけではない。水が流れているような癒しの場所でもない。何もない、単なる通路としての役しか果たさないトンネルである。

 はっきりいっておくが、神様はろくなものじゃない。男と女を出会わせるにも、相性とか、未来のこととか深く考えない。組合せ方はよくいえば自由自在、悪くいえばかぎりなくアバウトである。それが証拠にほとんどのカップルはかなり早い時期に破局を迎えるし、結婚しても死ぬまで愛し合う確率などは、それこそ奇跡的な数字のはずだ。当人たちにすれば「気分次第で決めないで」だろう。

 神様の本当の目的は、ベストカップルを作ることではなく、セックスをさせて子供を作らせ、人類が滅びないようにすることだ。

 最近、はやりのできちゃた結婚(当人たちはカッコ悪いから「授かり婚」とよぶらしい)は神様の落とし穴にだまされてはまったあわれな人間たちなのだ。ところが、人間という生き物はやっかいで、その出会いを「運命」にしたがる。

「前世から赤い糸で結ばれていた」

 といい、2人だけもりあがるのだ。そういう男女の関係ほどもろく壊れるのは、少し長く生きればわかることなのだが。

 それでもたまに、本当にたまにだが、神様が本気で仕事をすることがある。運命的な出会いを演出することがあるのだ。ここで、このときに会わなけりゃというタイミングで訪れる邂逅は間違いなく存在する。

 それはまもなく梅雨が終わると天気予報が伝えた夜だった。東口から西口へ若い男が鼻唄を歌いながら歩いていく。西から東へは若い娘が、小さな声でお気に入りの歌を口づさみながら歩いていく。WEロードのちょうど真ん中、2人はすれ違った。知らない男と知らない女が逆方向に歩いてすれ違う。ただそれだけのはずだった。

 しかし2人は「エッ」という顔をしてお互いの顔を見合わせた。

 2人が歌っていたのが同じ歌だった。しかもすれ違う瞬間、同じサビの部分を歌っていたのだ。

 5年前に奥さんを亡くして、当時、中学生だった娘を男手一人で育て上げたのだが、なぜか1年前に娘は家を出ていってしまったという、とてもさえないオヤジ、田丸幸雄の「娘を捜し出してくれ」という依頼を二つ返事で引き受けたのは牛山だった。

 いつもメニューやDMの葉書のデザインを発注してくれる居酒屋の社長の紹介だから、どうしても断れなかった。

「この娘、美佐子ちゃんていうんだけど、可愛いっしょ。捜すの手伝ってよ」

 岡林と青少年に娘の写真を見せながら、牛山が依頼内容を説明するのだが、2人ともノリが悪い。

「手ががりは?」

「美佐子ちゃんの高校時代の卒業アルバムを借りてきた」

「それだけ?」

「それだけ」

「じゃ、まず牛が手当たりしだいその名簿の友達に電話してみて」

「ボク、一人でやるの?」

「牛さんが頼まれたことじゃないですか。お得意さんの紹介でしょ。まず、自分でやってください」

 岡林も青少年も容赦なく断る。捜したふりをして「見つかりませんでした」と報告することもできたが、それをできないのが牛山のいいところであり、要領の悪いところでもある。

 次の日から3日間、約150人の同窓生に電話をしまくったが、美佐子ちゃんは高校時代の友達とはほとんどつき合っていなかったのだ。

 東京には1000万人以上の人が住んでいる。卒業アルバムだけで、捜してくれと頼むほうも頼むほうだが、引き受けるほうも引き受けるほうだと、岡林や青少年に文句をいわれ、牛山はいつものスナックで『僕は途方に暮れた』を歌っていた。

 そこへ毎週末、赴任先の長野から帰ってくる太がやってきた。落ち込んでいる牛山から事情を聞いた太は、娘の顔写真を見るなり、簡単にいい放った。

「知ってるよ。よーく、知ってる」

 暗い顔をしていた牛山は思い切り相好を崩した。岡林と青少年もとても驚いた顔をする。牛山は立ち上がって、太の手を引っ張り、

「行こう。その娘のところに行こう」

 と急かすのだが、太は座ったまま動かない。

「すぐには会えない……と思う。それよりそのおじさん、田丸さんっていったっけ。その人、ここに呼んでよ」

 田丸さんは、50歳前後というところだろうか。髪の毛全体が薄くなっていた。髪の毛だけでなく、存在自体が薄い。

「娘さんが家出をした原因に思い当たるところは?」

「年甲斐もなくスナックの女に入れあげまして、年は私より20歳下。ちょっと本気でした。それが娘にバレたんだと思います」

「娘さんを捜し出して、どうしたいんですか」

 太がおもむろに尋ねる。今夜の太はなんだかしっかりしている。転勤先でかなり苦労しているのだろうか。急に大人びた気がする。

「家に帰ってきてもらいたいです」

「それでは田丸さんに問題です。美佐子さんが未来の旦那さんを紹介したいと連れてきました。田丸さんは次のうち誰を選びますか。

①田丸さんより5つ年上のおじさん。

②アフリカの貧しい国の留学生、もちろん黒人。

③いかにもプレイボーイのバツ2の実業家。でもなんだかやくざ風。

④生活力のない秋葉原によくいる典型的なオタクでプータロー」

 太の質問に、田丸さんはとても困った顔をする。

「どれも嫌だ。どれも許さん」

「究極の選択だから、選ばなくっちゃダメです。カレー味のうんこか、うんこ味のカレーか、食べるならどっち? という問題と同じです」

 牛山の発言に、田丸さんは余計に混乱した。頭のなかに大きな皿に盛りつけられたカレーライスが出てきた。キーマカレーだ。

「ボクも近いうちにプロポーズしようと思っていますから、ぜひ、参考に聞かせてください」

 中国人留学生の星ちゃんと恋愛中の青少年の目はいつになく真剣だ。

「私より年上の頭のハゲたジジイが、私のことを『パパ』って呼んで……ありえない。菅原道真の子孫といわれているわが家系に外国の血が……困る。そんなやくざ風の男に、暴力を振るわれて覚醒剤なんか打たれて……どうすればいいんだ。といって稼ぎのないプータローで、しかもオタク野郎なんかに2ちゃんねるに書き込まれたら私の立場がない」

 田丸さんは頭を抱え込んだ。

「いや、どんな男だって許さん。小学6年まで私とお風呂に一緒に入っていたあの美佐子が、どこの馬の骨ともわからないヤツと……」

「この問題、実は正解はないのです」

 太の説明に田丸さんはきょとんとする。

「ボクならカレー味のうんこだな」

 牛山が会話に入ってくると、田丸さんの頭のなかには、またまた山盛りのカレーライスが現われる。今度はハウスバーモントカレーだ。西城秀樹も出てきた。

「娘さん、18歳過ぎてますよね。彼女の意思で家を出ていったんでしょ。誘拐されたわけでもなさそうだし」

 ここにきて、岡林は太が何をいいたいのか理解して、説明する。

「美佐子ちゃんを捜せといわれれば、オレたち、一生懸命捜しますよ。捜した結果、お父さんにとって、とても残酷な報告をしなければならないかもしれない。それを受け止める覚悟がありますか。覚悟がなければ、オレたち、捜しても無駄になりますしね。きっと美佐子ちゃん、お父さんのこと、大好きだったんでしょう。そのお父さんがお母さん以外の女性を好きになったのがショックだった。そういうことでしょ。もっといえば今が田丸さん、美佐子ちゃんにとって親離れ、子離れの時期かもしれない」

「ボクたちもヒマじゃないんで、捜した結果、田丸さんと美佐子ちゃんの関係がこじれるなら、捜さないほうがいいと思います」

 仕事がなくてヒマだけは売るほどある牛山が、田丸さんに最終決断を迫る。

「田丸さん、ご存じだと思いますが、この3人、池袋では3バカと呼ばれていまして、このバカには、文字通り頭が悪いという意味とバカ正直という意味がありまして、きっと田丸さんが傷つくからこれを黙っていて報告しないなどという気の利いたことはできませんよ」

 青少年はフォローしたつもりだったが、3バカはムッとして、青少年の頭を同時にはたいた。
「わかりました。今、美佐子が何をしているか、元気かどうかだけでも知りたい。どんな状況になっていてもすべて受け止めます。よろしくお願いします」

 田丸さんは立ち上がって、4人に深々と頭を下げた。

「美佐子ちゃん、どこにいる?」

 岡林の質問に太は何も答えない。

「本当に知ってるのか。また口からでまかせいったんじゃないの」

 牛山が口をとがらせると、太はムッとして答えた。

「知ってる」

 そして30秒ほど間をおいて、真剣な顔で答えたのだ。

「……知ってるけど知らない」

「どういう意味だよ」

「田丸さんにあんな偉そうなことをいっといて、知らなかったじゃすまないから」

「太さん、もういい年なんだから、自分の発言には責任持ってください」

 太は、3人が焦れているのを気にせず、ゆっくりとしゃべりはじめた。

「長野はね、何もない町なの。仕事終わると、定食屋で飯食って、夜も店は早く終っちゃうし、やることないわけよ。ま、たまにはフィリピーナの店に行くけど、ここのママ、フィリピン人なのに理佐ちゃんっていって、可愛い。可愛いけど、どうもパパさんいるみたいだから、オレは口説かない。分別ある大人だから」

「美佐子ちゃんは長野にいるんですか」

 青少年の問いを無視して太は続ける。

「33歳になる若者にとって刺激があまりない町で、といってときめくような出会いがあるわけじゃない。さびしい人生を送ってるわけね、オレ」

「この際、太の青春はどうでもいいと思う。肝心なのは美佐子ちゃん」

 結論を促す岡林も太は無視する。

「東京で毎日飲み歩いているみんなには理解できないと思うんだけど、要するに夜、とてもヒマなわけ。仕方がないからレンタルビデオ屋さんに通って、ビデオを借りて毎晩、鑑賞してる。たとえば『ダイハード4』とか『続3丁目の夕日』とか『レミーのおいしいレストラン』とか去年ヒットした映画はほとんど見た」

「ほかには……」

 意味深な笑いを浮かべて牛山が聞く。

「『ボーンアルティメイタム』とか『ナショナルトレジャー』とか『オーシャンズ13』とか……」

「それから……」

「『ドラえもん』とか『ワンピース』とか、アニメも見るかな」

「それから……」

「それから……えーと、ま、ヒマつぶしにたまにだけど……痴女ものとか、看護婦、スチュワーデス、若妻、不倫、SM、レースクイーン、巨乳、露出、癒し系、企画もの……。最後はもう趣味じゃないけど熟女。それに60歳くらいのババアが出てくるのもある。いやいやAVは奥が深いわ」

 3人の冷たい視線が太につき刺さる。

「しょうがないじゃん。ヒマなんだもん。自慢じゃないけどAV100本は見たな。AV評論家になってもいいかなというくらい見ました。も、ちょっとやそっとの刺激じゃ興奮しないくらい見ました。もう鼻血も出ません」

「太のAV好きは東京にいるときと変わらないと思うけど。太が変態でも別にオレたち驚かないし、軽蔑もしない。よく知ってる。それより、それが美佐子ちゃんの居場所にどうつながるのか。つながらないなら、オレ、太、殴るよ」

 岡林が手のひらをグーにして太に見せたから、太は慌てて、

「出てたんだ」

「もちろんヘアは解禁だし、あそこも最近は薄消しが主流ですからね。えっ! もろ見えちゃったんですか」

 青少年は健全な若者である。健全であるということは、すなわちスケベであるということだ。

「違う! 出てたのは……あそこじゃなくて美佐子ちゃん」

 3人は絶句する。

「背が小さくて、顔が幼いからロリコン系。これがマニアのあいだでは大人気になって、そのうえ、その1本で引退っていうから、ファンが買いに殺到。思わずオレも買ってしまいました。AVビデオでは珍しく1万本以上売れたらしい。芸名は星ミサ」

「その星ミサが美佐子ちゃんっていうのは間違いないのか」

「鼻の横に小さなホクロがある」

「胸は大きい? 形は? 3サイズは?」

「それはどうでもいいんじゃないでしょうか」

 牛山の矢継ぎ早の質問を、ぴしゃりと青少年が断ち切る。

 ここから難航した。ビデオ女優は、週刊誌や写真誌、写真集などで顔や体を売り込み徐々に露出を増やして、人気を得ていくものだ。若い娘で有名になりたくないヤツなんていない。そのうちテレビの深夜番組で際どい格好をして出演して、運がよければビックになれるかもしれない。が、星ミサは1本に出演したきり引退してしまっている。

 メーカーに問い合わせても「こちらが聞きたいくらいです」といわれるし、所属事務所はとうに辞めていた。4人は困り果てた。

 その頃、中村さんは西口のバーで酒を飲んでいた。隣に座っていた胸のデカい女の子が、親しげに話しかけてきた。

 中村さんは加齢臭がしはじめ、若い女の子に敬遠される年代なのだが、人の気持ちを聞き出す特技がある。女の子は中村さんにふと気を許し、何でもしゃべってしまう。でも、モテるということとは根本的に違うということを本人は気づいていない。しばらくたわいのない話をしたあとに唐突に彼女はこう告白したのだ。

「私、AV女優してるんです」

「エー! そうなの。見えないね」

「愛栗鼠ユリっていう芸名なんですけど」

「いくつなの?」

「本当は26歳ですけど、プロフィールは21歳」

「AV業界も若いほうがいいの?」

「私、ロリコンビデオに出てますから。年がいってるとまずいんですよ。背だって150センチあるけど、147ということになってます」

「ユリちゃんは、彼氏とつき合うとき、いつもAV女優だってカミングアウトしちゃうわけ」

「しますよ。隠してもしょうがないし、あとでバレるのはもっと嫌だし」

「彼、引かない?」

「まちがいなく引きます。引かない男もたまにいますけど、そういう男にはお金をしっかり騙し取られます。目的は私の体とお金。はははは……」

 ユリちゃんは寂しげに笑った。中村さんは笑っていいのか悪いのか困った顔をしながら、「ロリコン」「AV女優」という単語から、3バカが捜している娘のことを思い出した。中村さんもまだ完全にはボケていないらしい。

「ユリちゃんさ、星ミサって知ってる?」

「おじさんもロリコンだったの? よーく知ってるよ。友だちだもん。AVに出る娘って、いいも悪いも原因というかトラウマというのがあるんです。でもミサちゃんはそういうのがない娘で、おそらく魔がさしたっていうんですか。向いてないから、私が辞めさせたんです」

 ここにきてやっと美佐子ちゃん探索の糸口が見えてきた。次の日、ユリちゃんは3バカに美佐子ちゃんを会わせてくれた。ただ星ミサの大ファンの太は、美佐子ちゃんと一緒に男がついてきたことが気に入らない。

 WEロードを西口から東口に抜け、ピーダッシュパルコの角を斜めに曲がると、由緒ある映画館・文芸座がある通りだが、直角に曲がると、線路沿いに細長い公園がある。正式名称で呼ばれることは少ないが池袋駅前公園という。

 入ったところに8代将軍吉宗が建立した四面塔稲荷神社、大塚寄りには水天宮まであるというありがたい公園だ。

 朝5時半、水天宮寄り、池袋大橋の歩道橋があるベンチにたむろしているのは3バカと青少年、中村さん、それに朝早くから呼び出された田丸さんだ。残りの5人はさっきまでスナックで飲んで歌っていたから、朝日が眩しくて目をしょぼしょぼさせている。

「こんな朝早く、しかもこんなところで何事ですか?」

「ご依頼の件、今からご報告します。というか見てもらったほうが早いかと思い、ここへ来てもらいました。もうすぐここに美佐子ちゃん、現れます」

 話を切り出したのは、依頼を受けた牛山。

 そのとき、カップルが公園に入ってきて入口近くのベンチに座る。美佐子ちゃんと青年だ。田丸さんと美佐子ちゃんの距離は約50メートル。

「美佐子……」

 田丸さんは小さく呟いてベンチから立ち上がろうとするのだが、岡林が、

「しばらく様子を見ていてください」

 と手で制した。

「あの青年は東口のバーで見習いをしています。美佐子ちゃんは西口のキャバクラで働いています」

 美佐子ちゃんは、AVをやめてオミズをはじめた。ただAVのことはショックが大きすぎるから、みんなで相談していわないことにした。でも田丸さんはキャバクラという単語にも反応する。

「2人は店が終わってから、偶然そのWEロードで出会い、知り合いました」

 牛山が2人が出会った経緯を簡単に説明する。

「あんな男のどこがいいのか」

「今どきの若者にしては彼、なかなかの好青年だと思いますよ」

 岡林もこういうセリフをさらっといえる年になった。田丸さんは2人をがん見している。ここでキスなどしようものなら、狂ったように駆け出すだろう。田丸さんはしばらく男を値踏みするような目で、あるいはあら捜しをする目で2人を見つめていた。

 中村さんが話題を変えるように会話に入ってくる。

「今日、私がここへ来たのは同世代として、田丸さんに興味を持ったからです。田丸さんとどうしても話がしたかった。

 かれこれ20年以上前、亡くなった奥さんと結婚する前、田丸さんはある女性と大恋愛していますね」

「なんで、そんなことまで?」

「詠子さんでしたか? でも詠子さんとは結ばれなかった」

「詠子のお父さんが大反対で、詠子もお父さんや家族を捨てることができなかったから、断腸の思いで別れました」

「お別れになったとき詠子さんのお腹には赤ちゃんがいた」

「ハイ。別れてから知りました」

「田丸さんはずっと詠子さんと連絡を取り続けていたんですね」

「何ができるか、考えました。今はシングルマザーっていうんですか。でも当時は、『父なし児』『妾腹』とかいわれた時代です。詠子はずいぶん辛い思いをしたと思います」

「昨年の夏、美佐子ちゃんは詠子さんからの手紙を読んでしまいました。

『20年間のご好意、心から感謝します。息子もやっと20歳になりました。これで最後にしてください。あなたの気持ちを裏切らないよう一生懸命育ててまいりました。どことなくあなたに似てきたなと思う今日この頃、あなたに負けず劣らずやさしい男の子になりました。あなたに会わせても恥ずかしくない自慢の息子です』

 その手紙を読んで、ママ以外にパパが愛した女がいたこと、自分以外に子供がいたこと、美佐子ちゃんは嫉妬したといいます。パパに裏切られたと思ったそうです。それで家出をしたといってました。 

 田丸さん、ときどき人生って不思議だなって振り返りませんか?」

「娘は家出して、自分は年甲斐もなく若い女の子の尻追っかけて、振り返るどころじゃありません。それにまだ会ったこともない息子がどこかにいるらしい。いい年して、いったい何やってるんだろうと反省ばかりです」

 田丸さんは二十数年前にタイムスリップした。あの頃、よく池袋でデートしたな。詠子とWEロードを手をつないで何度も通ったっけ。桜の季節に池袋駅前公園で初めてキスをした。そして別れの日、喫茶店で「あの歌」が流れだし、あまりのタイミングのよさに、2人ともボロボロと涙が止まらなかったことを。

 田丸さんが思い出に耽っているあいだに、いつのまにか美佐子ちゃんと青年が目の前に立っている。世の中のすべての父親にとって、娘の彼氏というのは、憎っくき敵である。略奪者といっても過言ではない。田丸さんは立ち上がってファイティングポーズを取った。

 B型でマイペースの牛山があきれ返った顔で田丸さんに話しかける。

「田丸さんは勘が鈍い人ですね。美佐子ちゃんと彼はWEロードで同じ歌を歌っているときに出会ったっていいましたよね。美佐子ちゃんは、彼にこう聞いたそうです。

『なんでその歌、知ってるの?』 

『お母さんが好きだったから。キミは?』

『機嫌がいいとき、パパがいつも歌ってたの』

 2人はそのときピンと来たそうです。目もとなんか田丸さんにそっくりじゃないですか。口は美佐子ちゃんに似てる」

 田丸さんは信じられないという顔をする。

「パパ、お兄ちゃんだよ。カケル兄さん!」

 美佐子ちゃんに紹介されたカケル君は深々と頭を下げる。田丸さんもそれに負けないように頭を下げる。2人とも一言もしゃべらなかった。しばらくして頭をあげたとき、お互い相手に何かをいったのだが、ちょうどそのとき公園脇の線路を山手線と埼京線と東武線が通りすぎ、声をかき消した。こんなとき言葉は何の意味も持たない。

「お父さんって呼ばせてもらっていいですか」

 カケル君がそういうと、田丸さんはカケル君と美佐子ちゃんとまわりのみんなに尋ねるようにいった。

「私は、お父さんって呼ばれていいんでしょうか」

 中村さんが、「当たり前じゃないですか」と背中をぽんぽんとたたく。

「これ、ボクの御守りなんです」

 カケル君はそういいながらショルダーバッグから、5センチほどに束ねられた封筒をいくつも取り出してベンチに並べていく。その数20個。田丸さんが20年間送り続けた240通。すべて現金書留だ。田丸さんは、生まれた日から成人になるまで、せっせとお金を毎月毎月送り続けたのだろう。

「いくらずつ送ったんですか」

 太が聞くと、岡林が「要らないことを聞くな」とばかりに首を横に振り、みんなにアイコンタクトを送ると何の挨拶もせずに5人は親子3人を残して立ち去っていく。

 5人は公園を抜け、WEロードに入り西口をめざす。楽しい酒を飲みたい気分だった。池袋にはこんな時間でも酒を飲ませてくれる店が何軒もある。しばらくして、青少年が、

「あの歌、思い出しました。スナックで歌っているのを聞いたことがあります」

 と叫ぶとサビの部分を歌い出した。牛山がそれに合わせる。

♪どうしてどうして僕たちは
 出逢ってしまったのだろう
 壊れるほど抱きしめた

 どうしてどうして私たち
 離れてしまったのだろう
 あんなに愛したのに
(『リフレインは叫んでいる』松任谷由実)

 これが今年初めて真夏日を記録した7月の話だ。いつもいい加減な仕事しかしていない神様の起こした久々の“奇跡”だ。

「どうせ、オレなんかついてなくて、つまらん人生だよ」

 と嘆いているあんた、世の中にはこの程度の奇跡は吐いて捨てるほどあるんだよ。ちゃんと生きてりゃ、きっとあんたにだって奇跡は起こる。だからお願いがあるんだ。

 あんたや、あんたが大事にしている人にとてもハッピーなことが起こったなら、そんなときは、あんたが神様が嫌いでも、無宗教でも、空にいる神様を、ほめてやってくれないかな。こういってやると神様は喜ぶよ。

「グッジョブ」ってね。

 親指を立てていってくれるとすごくうれしいかも。神様はけっこうお調子者だけど、気のいいヤツだから。

 お前、誰かって? オレ? 照れちゃうな。いいにくいんだけど、実はオレがその神様なんだよ。

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コメント


今日の女・・一緒に街歩いてたらオレのズボンのポケットに手を突っ込んできて、
ずっとニギニギしてたわwwww
ホテル到着するなり(フ^ェ^ラ)だもんなwwww Say欲すごすぎwwwww

http://paipai.krieh.com/SRUjJCO/

投稿: パクーーーンチョ!!! | 2009年5月 8日 (金) 02時08分

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